Darkest White
どのくらい泣いたのだろうか。
今になっても思い出せないくらい、長いことそうして笹原さんの胸に顔を埋めていた。
きっと、身体中の水分を絞り取られているような、そんな悲痛な声だったのだろう。
その時の笹原さんの悲しそうに歪んだ顔が、今でも忘れられない。
頭がくらくらして、やっと嗚咽が収まったとき、そっと笹原さんがわたしを体から引き離した。
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げるわたしをみて、笹原さんは何を思ったのだろう。
「……ごめんね。」
「…っ…ぅう…」
ぽんぽんと頭を撫でられると、それがひどく安心した。大嫌いなはずなのに。もやしみたいに真っ白で、鼻が少し不恰好で…何より、お母さんを奪った人なのに。
「いっぱいいっぱい大変だったよね…気づけなくて、ごめんね。」
笹原さんのその優しい声に、わたしは何も返すことができなかった。
「お母さんとっちゃって、ごめんね。凛ちゃんのこと、お母さんのことが大好きなのと同じように、すごく大切に思ってるからね。」
笹原さんが寂しそうに笑う。
笹原さんがどうして悲しそうな顔をしているのか、わたしにはわからなかった。
笹原さんはふとカバンを漁り始めた。わたしが不思議に思っていると、
はい!って言う声とともに、目の前に赤い箱が現れた。
何かと思って蓋を開けてみると、真っ白なベールを纏い、上にキラキラ光る赤い実を乗せたケーキが入っていた。
「今日は凛ちゃんの誕生日だって聞いたから…」
困ったように頭をかく笹原さん。
「学校に行ってみたんだけど…凛ちゃんがいなくなったっていう話を聞いて…驚いちゃったな。」
眉根を下げて笑う笹原さんが、初めて、すごく優しい、良い人に見えた。
「ケーキ…好きかな?今日は家に帰ってお母さんと一緒に食べようか。そろそろお仕事から帰って来るんじゃないかな。」
小さく浮かべる微笑みが、わたしのざわついた胸をスッと落ち着かせてくれた。
一「一緒にお家に帰ろう。」
初めて繋いだ手は、大きくて、少しだけ乾いていて、そして何より温かかった。