Darkest White
*
ーバイバイって手を振ったあなたのその後ろ姿、一生忘れない。
寒さでかじかんだ指先をコートの袖の中で温めながら歩く帰り道は、ひどく寂しかった。
懐かしい街並みに、流れ星のようにたくさんの記憶がフラッシュバックした。そしてまるでそれを全て心の小さなポケットに隠すかのように、塩辛い何かを飲み込んだ。
知らないうちにわたしの愚かな足が体を運んだ先は、白いバラが咲き乱れる、わたしが後にしてから何一つ変わらない大きな家。
白いバラは、わたしの父が好きな花だった。
街灯の白い光がおとぎ話の世界みたいに、それらを美しく浮き上がらせている。
プラスチックでできたその花々を見て、天国の父は何を思っているのだろう。
幻想的なこの家は、苦い思い出で溢れている。
二階の一室にオレンジの光が灯っている。
「…お母さん…。」
わたしたちは、どこで道を間違えたのだろうか。
ふと光の一部が遮られ、二つの黒い影が現れた。
一人の女性と男性の二つの影が少しだけ距離を開けて向き合っている。
その男の人は、笹原さんですか。
そうであってほしいと、願うことしかできない。
フッとカーテンに腕が伸び、一瞬だけ金髪の頭が踊る。
妙に落ち着いたこの心情はどこからくるものなのだろう。