Darkest White
わたしはあの人のことを思いながら、いつもだったら真っ直ぐ帰る道を、反対方向にふらふらと歩き始めた。
どのくらい歩いたのだろうか。
家に帰る気は到底起きなかった。
月曜日の夜は常に憂鬱だ。真っ直ぐ帰った後も、なんども家を抜け出してしまうことが多い。
だけどこのカラオケ店がある治安の悪い道だけは避けていた。
今日のわたしはきっと狂っている。昨日の今日で、危機感が薄れているのかもしれない。
ふと気がつけば、わたしは見知らぬ細い道に立っていた。
あたりを見回せば、危なそうな店がチカチカと広告を光らせている。
人気のない路地はどこか不気味だ。
慌てて来た道を戻ろうとしてわたしは唖然とする。
「どこ…ここ…」
ズキン、ズキン…背中が痛い。
わたしは浅く息を吸う。
帰れない…
まただ。
すうーっと気持ちが落ち着いてきた。なぜだか冷静な自分がここにいた。
わたしは長いことそうして立っていた。
きっと帰ろうと思えば帰れる。携帯のマップをみれば済む話だ。
あえてそうしないわたしは多分壊れてる。
「ひゅーひゅー、お姉ちゃんこっちおいで〜。」
気持ち悪い不良が近づいてくるけど、微塵たりとも動かない。
何か言っている。腕を引っ張られている。
動けない。
自分がされるがままにどこかへ歩いている。
細い道を曲がって、死角になった場所に投げ出されている。
それはわかっている。でも、頭がついていかない。
何かを引き剥がされる。
冷たい空気が肌に当たる。
次の瞬間、何か悲鳴にも似た声が聞こえて、わたしはそのまま一人置き去りにされた。
背中が冷たい。
痛い。