Darkest White

何も言わずにパーカーの腕の部分を両脇にぶらさげ、その中に丸まったままの風船を出そうともせず、ただ、突っ立つわたしを見て、光が少し目尻を下げた。


「…寂しい顔してる。」


いつもの光からは想像もできないような、優しい声。


「お前は…辛いか?」


声が出ない。

まるでしゃべることを忘れた人みたいに、ただ、光の口元を見つめる。


「俺は辛い。」

「…え?」

「俺は寂しいし、辛いし、苦しい。」


喉の奥が痛い。


「完璧な人間なんていねーんだよ。」


諭すように話す光は、まるで子供を慰める父親のような雰囲気を繕っていた。


「だから、苦しくたって、おかしいことなんてない。」


空気のように、すっと心の中に染み込んでいく言葉。






「泣けない……それも、おかしくねえんだよ。」







膝が震えて立てない。

そう。



わたしは泣けない。



笑うことはできるけど、涙が枯れてしまったんだ。


< 88 / 270 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop