男装女子。FIRST SEASON
「…見たところ、不自由はしてないようだね。」
『まあ、それなりに稼いだし。中学はずっと休んでこなかったから、今更休んでも内申とかどーでもいいから特に問題なし。高校、大学も通信制にすれば大丈夫だし。そこまでのお金はもちろんあるし、今後20年間は生きていけるよ。』
「そうだよねぇ、じゃあ僕のところに戻ってこない?」
『戻らない。』
「だよねぇ。…秋が心配してる。」
『…そっか。』
「君がいなくなった日から、ずーっと、探し続けてる。…寝る時間も惜しんで。」
『……。』
「…あのままだと、秋は死ぬよ。それでもいいの?」
『…良いも何も…。』
「…彼のところに戻ったらどう?」
『戻れないよ。』
「どうして?」
『だって、また迷惑かけちゃう。』
「迷惑かけたら駄目なの?」
『駄目だよ。』
「どうして?」
『どうしてって…駄目なものは駄目だから…だって、死んじゃうから…』
「人はどうせ死ぬ。」
『っ』
「みんな、死ぬんだよ。今だってたくさんの人が死んでる。たかが死ぬことに怯えるなんて、馬鹿らしい。」
『……。』
「死ぬのが遅かれ、早かれ、人は等しく死んでいく。悠真と雪羽と碧は、それが早かったんだ。だからと言って、僕達が長いかどうかはわからない。明日にだって死ぬかもしれない。」
『…うん。』
「誰かが死ぬのは苦しくて辛いこと。だけど、死に対して素直に向き合わなきゃいけないことでもある。…人は同じくして、その地へ還るのだから。」
『…うん。』
「まあ簡潔に言うと、もっと気楽になれってことかな。」
『えっ今の内容そういう感じだったっけ。』
…けど、
なんとなく、心が楽になった気がした。
『…でも、秋さんには会わないよ?』
「…だよねー。じゃ、僕はもう帰るね。仕事残ってるし。…大分溜まってるし。」
『へぇ…お疲れ様…。ボス、また会う時があったらね。』
「…また、会えるよ。まあまた随分と先になるだろうけど。」
『?』
「じゃ、ばいばーい。」
バタンッ
『…ハァ……やっぱりどこからどう見てもお腹出てる禿げた中年のおっさんなんだよなぁ…。』
…優しい、人だ。