ルーンの姫君《連載》
プロローグ
「きゃぁっ」
私はドレスを着たまま、いきなりライラック色に染まる湯の中に乱暴に投げ込まれた。
いつ建てられたか分からない古びた石造りの宮殿の奥まった場所にある湯殿。
ゼルに抱きかかえられたままいくつもの部屋を通り連れてこられた。
部屋は白く輝く石で覆われ、
壁の女神像が掲げる壷から注がれる湯は、浅く広い浴槽を満たしてなお外へあふれ出して湯殿というより泉のようだ。
かすかに薄霧のようにけむる湯気の中で、彼は楽しげに私を見ていた。
「ゼル様、何をなさるのですか」
なんとか身を起こし、私は果敢に抗議した。
「どうですか、いい湯でしょう」
湯といっても、人肌よりほんのり暖かい程度で、冷たくも熱くもない。
ぬめりというかとろみがあって、身体を支えた手が滑りそうになる。
たちこめる花のような甘い香りが濃密で、むせそうになる。
いきなりの手荒な扱いに不満げな顔をしていたのだろう。
身体をかがめるとやさしく諭すように言った。
「これはどんな怪我でもすぐに治る秘伝の薬湯です。
しばらくそれに浸かっていてください」
「薬湯?私の足を気遣ってくだすったのですか?」
----足を痛めていることに気付いてくれた?
私はドレスを着たまま、いきなりライラック色に染まる湯の中に乱暴に投げ込まれた。
いつ建てられたか分からない古びた石造りの宮殿の奥まった場所にある湯殿。
ゼルに抱きかかえられたままいくつもの部屋を通り連れてこられた。
部屋は白く輝く石で覆われ、
壁の女神像が掲げる壷から注がれる湯は、浅く広い浴槽を満たしてなお外へあふれ出して湯殿というより泉のようだ。
かすかに薄霧のようにけむる湯気の中で、彼は楽しげに私を見ていた。
「ゼル様、何をなさるのですか」
なんとか身を起こし、私は果敢に抗議した。
「どうですか、いい湯でしょう」
湯といっても、人肌よりほんのり暖かい程度で、冷たくも熱くもない。
ぬめりというかとろみがあって、身体を支えた手が滑りそうになる。
たちこめる花のような甘い香りが濃密で、むせそうになる。
いきなりの手荒な扱いに不満げな顔をしていたのだろう。
身体をかがめるとやさしく諭すように言った。
「これはどんな怪我でもすぐに治る秘伝の薬湯です。
しばらくそれに浸かっていてください」
「薬湯?私の足を気遣ってくだすったのですか?」
----足を痛めていることに気付いてくれた?