ルーンの姫君《連載》
高鳴る胸を必死に沈めながら、慎重に、しとやかに謁見の間へ続く赤い絨毯を踏みしめた。

慣れぬ靴で足が痛む。
針の上を歩くように一歩ごとに痛みがつきあげてくるが、今までの不遇な生活への離別の儀式だと思えば苦にならない。


しずしずと礼にのっとり、うつむいたまま王壇の下まで進み出て深く頭をさげひざをついた。



「シザーレより、ユリシア・モリアート嬢のお越しでございます」




王の側近から「モリアート」という母の姓で名前が呼ばれると、周囲から静かなざわめきがたちのぼった。




「顔をあげよ」



低く地を這うような声に、私はそっと王座を見上げた。



「アリス・モリアートの娘、ユリシアにございます」



賢王、獅子王として司教や修道女達から伝え聞き、思い描いていた立派な父王はそこにはいなかった。
< 5 / 23 >

この作品をシェア

pagetop