美意識革命
「別れた彼に会えることは、遠距離ってこともあってもうなくて、それでも絶対いい女になって見返してやりたいって思ってジム行こうって。」
「なるほど…そういう理由でしたか。」
「…すみません、大したこともない理由で。」
「いえいえ。…というか、真面目ですね、九条さん。ジムに行く理由なんてなくたって大丈夫なのに。」
「…真面目ですか、私。」

 森は静かに頷いた。

「ちゃんと彼と話し合いたかったって、しっかり相手を想ってたってことじゃないですか。ちょっと彼氏くんの方が子供だったのかな…。」
「…いやでも、私の気持ちが重かったのかもしれないし…。」
「だとしても、重いなら重い、受け止めきれないってちゃんと言ってあげないと、お互い前に進めないんじゃないかって思うんですけどね。少なくとも僕は。」

 終わりになるならそれで、仕方がないと思ったことも嘘ではない。それでも、森が言ったようにお互い前に進むために、どうにかしたかった。『どうにか』の先が別れ、になったとしてもだ。

「…う~…森さん的確に刺してきますね…。」
「え…さ…刺してますか、僕。」
「刺してますよ~…。おかげでさっきこらえた涙が戻ってきました…。」
「…ごめんなさい。でも、泣いちゃった方がよくないですか?」
「え?」
「無理に我慢しないで、がーっと泣いちゃう。どうです?」
「…嫌です。明日仕事ありますし。」
「…うーん、そうですか…。でも確かに目が腫れたまんま職場に行くと面倒ですよね。」
「なんか森さん、経験あるみたいな言い方ですよね、さっきから。」
「…はは、鋭いですね。仰る通りです。失恋して大泣きして次の日職場で尋問を受けたのは僕です。もう2年も前の話ですけどね。」

 突然明かされた、森の過去。

「え…。」
「九条さんも秘密を話してくれたのに、僕も話さないと不公平じゃないですか。」
「…そうかもしれないですけど、無理に話させることでもないというか…。」
「無理に話したんじゃないです。九条さんにだから、話しました。」

 森はまた優しく微笑んだ。
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