美意識革命
 着いたのは本当に近所の、小さな居酒屋だった。

「近所の居酒屋とか開拓していくタイプですか?」
「いえ、全然。知ってはいるんですけど、なかなか入れなくて。」
「そうでしたか。ここは豆腐が美味しいですよ。」
「お豆腐ですか。…それはいいですね。お豆腐大好きです。」
「よかった~!」

 本当に4歳も年上なのだろうか。下手したら自分よりも若く見えるような気がする。森を見ているとそんなことを思う。

「僕生で。九条さん何飲みますか?」
「えーっと…シャンディガフで。」
「意外と飲めるクチですか?」
「意外ですかね?飲めそうな外見だと思ってるんですけど。」
「ちょっと弱いかなって思ってました。」
「そういうところも可愛くないんですよね、私。」
「え?」

 どうしてなのかはわからないが、森の前だと何でも言えてしまう。前回あんなに話せたのだって、普通に考えたら有り得ないことだ。森には何でも言わせてしまう魔力があるとしか思えない。

「男の人って飲めない女の子が好きじゃないですか?」
「うーん…どうかなぁ。僕は一緒に飲みたいからあんまり弱いとちょっと寂しいですね。」
「…森さんって珍しいタイプなんじゃないですか?」
「そうですか?彼女と一緒に飲みたい男なんて結構いると思うんですが。」
「酔って頼ってくれる子が好きなんじゃないんですか?」
「個人差はあるということを前提で言いますが、少なくとも僕は一緒に楽しく飲みたい派ですね。くだらないこととか、今日あったこととかそういうのを何となく話したり、聞いたりしながら。もちろん酔って頼ってくれるのも可愛いなとは思いますけどね…。」
「生ビールとシャンディガフです。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、乾杯しましょうか。1週間、お疲れ様でした。かんぱーい!」
「乾杯。」

 いつもより(といっても本当の意味でのいつもというものを由梨は知らないが)テンションが高い森とこうして乾杯して飲もうとしているなんて、本当に不思議だ。
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