美意識革命
「ジム、調子はどうですか?」
「段々マシンの使い方にも慣れてきました。あと、やっぱり過剰な接客をされないっていうのがいいですね。行きたいときに行けて、やりたい量だけやれるっていうのが。」
「筋肉つきました?」
「…うーん…見た目にはわからないのでどうでしょう。体重は順調に落ちてたんですが、最近は止まってます。」
「あ、じゃあ筋肉がついてきたかもしれませんね。」
「そうなんですか?」
「おそらく。自分磨き、順調ですね。」

 運ばれてきた料理に手を伸ばしながら、由梨は少し考え込んでしまう。本当に自分磨きは順調なのか、と。

「…どうしました?」
「ジム、楽しいです。身体動かすのってなんか気持ちがすっきりするし。心地いい疲労感もあって、しばらく続けたいです。」
「それは良かった。」
「でも…。」
「…どうか、しました?」

 『可愛い』『綺麗』は魔法の言葉であり、麻薬のような言葉でもあると思う。少なくとも今の自分はどっちでもないと思っているし、だからこそそうなりたいものでもある。しかし、それは何のためだろうと考えると、立ち止まってしまう。
 彼氏がいた期間は確かにそう言われることが多かった。だから手放したくない。最初はそんなことを思って身体を鍛えることにした。

(…もしかして、何か違うかも…?私、また間違えた?)

「九条さん?」
「あ、はい!ごめんなさい。ちょっと、また最近ぐるぐるしちゃってて…。」
「ぐるぐるしてるんですか?」
「…お恥ずかしいことに。なんか、空回りしている気もしてきて。」
「空回り、ですか?」

 由梨は頷いた。残っていたシャンディガフを飲み干す。

「彼を見返すくらいいい女になるって思ってたこと自体が、…空回りというか。」

 歯切れの悪い言い方になってしまった。だが、視界に入ってきた森はもう聞く気でいるようにも見える。ここはお酒の力を借りて全部はき出してしまおうか。
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