美意識革命
「あのね。」
「うん、どした?」

 由梨は切り出すことにした。

「恋愛してると女性は綺麗になるって言うじゃない?」
「あーそうね、言うね。」
「現に私、付き合ってる間、周りからすごく言われたの。綺麗になったねとか、可愛くなったねとか。職場の人とかにね。」
「彼氏は言わなかったけどね。」
「まぁー…そうなんだけど。もういいよその話は。それでね。…なんだろう、なんかやっぱりその言葉って嬉しいんだよね。恋愛の効果だったのかもしれないけど、一過性のものにしたくなくて。」
「ほぉ。」
「自分磨きをしたいなぁと思うわけ。見返してやりたいというか。別にもう会うこともないだろうけど、でもお前なんかいなくても、こんなに綺麗になったんだからなーって。」
「…なるほど。具体的にはどうしたい?」
「…なんだろう?それを一緒に考えてほしくて。」

 綺麗の言葉は麻薬だと由梨は思う。そう言われて嬉しくない女性に会ったことがない。一度言われると維持したくなる。しかし、恋愛というオプション機能は今の由梨には使えない。

「新しい恋をするのが手っ取り早くない?」
「…そ、れも考えたんだけど。あんまり乗り気になれなくて。」
「まぁー…別に嫌いで別れたんじゃないしね。」

 どちらかといえば心はまだ相手にあったわけで、早々に新しい恋愛にいきたいというわけでもない。自分の見た目や内面に自信をつけてくれる何かがほしい。

「あ、じゃああれじゃん。今流行ってるジムとか?肉体改造!痩せるというよりは締めるみたいな?」
「…その手があったか…。」

 ふと、玄関に置いたチラシを思い出す。自宅から徒歩2分のところに、新しくスーパーとジムができるということだった。

「…ジム。明日施設見学行ってみる。」
「由梨、ますますかっこよくなるのか~!もう私と付き合おうよ~!」
「30過ぎても二人で独身だったらそうしよ。」
「オッケ~!」

 九条由梨(くじょうゆり)、26歳。生まれて初めて、ジムに通うという決意をした。

(…絶対身体を締めて、綺麗になってやる。そして、自分の見た目に自信をつけるんだ。)
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