美意識革命
「ジントニック1つ、お願いします。」
「いい飲みっぷりですね。それで、続きどうぞ。」

 やはり森は聞く体勢を取ってくれていた。森の魔力のせいにして甘えることにする。

「…いい女って何なんでしょう。どうしたら見返せるんですか。」
「難しいですね、どっちも。一緒に考えましょうか。」
「…本当に森さんは、いい人ですね。私が何言っても、全然動じない。」
「そんな風に見えますか?」
「はい。」
「だとしたら、僕も演技が上手くなったんですね。」
「演技ですか。」
「動じてないように見えるなら、って意味です。嬉しいのとかそういう気持ちは全部演技じゃないですけど、顔は…それでも表情は豊かな方だと…。」
「豊かだと思いますよ。よく笑いますもんね。でも、動じているようには見えません。」
「…それはきっと、今の九条さんの気持ちが落ち着いていないからだと思いますよ。多分、いつものというか通常運転の九条さんならもっと冷静に周りが見えるんじゃないですか?
今は一時的に冷静さがなくなっちゃっているんですよ。」
「冷静さ…は、確かにないかもしれませんね。なんだか焦る気持ちが…あるんですよ。」
「焦り、ですか。」

 早く、どうにかしなければ。吹っ切れなければ、忘れなければ、進まなければ。たくさんの義務が迫ってくるような気がしてしまう。別に誰かに急かされているわけでもないのに。

「…何に焦ってるんでしょうね。そこが糸口かなぁ。」

 独り言のように呟かれた、敬語の取れた言い方。森は森なりに探してくれているのだろう。由梨自身にすら見えない糸口を。
< 20 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop