美意識革命
「ジムに通って身体を鍛えることで見返したいっていうのは、見た目を考えてのことだったんじゃないですか?」
「…多分、そうだと思います。彼氏ができたとき、周りから綺麗になったとか、そういうことを言われて…。やっぱりそれは嬉しかったというか、そんな自分になったのだとしたら、できれば言われ続ける自分でありたいなって…思ったんだと思います。」

 自分のことなのに自信がない。はっきりとそう、そうじゃないと言えない自分がもどかしいけれど、それに嫌な顔ひとつせずに、森は真剣に話を聞いてくれている。

「見た目への美意識が高まったんですね、恋愛によって。」
「見た目への美意識…ですか。なんかすごく…ストンと落ちました、今。」
「え、当たってましたか?」
「当たってたんですかね、でも、見た目への美意識ってそうかもって。」
「じゃあちょっと進みましたね。それで、あとは空回りとか…どうやったら見返せるか…とか。」

 自分のことに自分よりも一生懸命になってくれる人がいると、少しだけ冷静になれるのは、この前の葵とのディナーのときにも感じたことだ。

「…いい女って、見た目だけじゃないなって。」
「なるほど。」
「ていうか、見た目はどうしようもなかったですね。痩せたり筋肉つけたりすることはできても、顔が可愛くなるわけじゃない。」
「顔が可愛くなりたいんですか?」
「…顔はもう置いておいて、私が可愛くなるべきは言動だったり、行動だったりなのかな…とか。」

 森に対する態度もそうだが、全般自分は可愛くない。可愛げがない。わかっていて、直せなかったところだ。

「そこが可愛くなったら、九条さんの言ういい女、ですか?」
「…森さんの言ういい女って何ですか?」
「…難しいですけど、自分の意志がある人かなって。」
「意志…ですか。」
「こうありたいから、努力するとか。そこに自分がある人がいいなって思います。これは女性にだけ当てはまるものでもないかもしれないですけど。」

 森はやはり大人だ。
 『いい女』の『女』の部分に囚われていた自分に、少しだけ気付く。
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