美意識革命
「…そう、ですか…。」

 ふぅと息をはく森。焦っていたのか、余裕のない表情も珍しい。

「森さん、大声出すんですね。びっくりしました。」
「いやあの、普段はほぼ出さないんですけど…九条さんが彼氏を会わせるとか言うから…。」
「私にもし彼氏ができるとしたら…そうですね、相当物好きな人じゃないと…。職場で出会いもないですし、当分というか永久に先なんじゃないですかね。」
「永久に先って、それ、訪れないじゃないですか。」
「だから、そう言ってるんですよ。相当物好きな人はなかなかいません。」

― ― ― ― ―

(相当物好きな人は、目の前にいるよ。…なんて言えるはずがない。)

 ジムで見かけないだけで少し寂しくて、よく着ているパーカーの色を探してしまう日々を送っていたなんて知ったら、彼女はどう思うのだろう。
 気持ちが彼女を追いかけ始めている。そんなことを自覚している自分に、彼女は全く気付いていない。だからこそ、今日こうして誘って、話が聞きたかった。悩んでいるなら力になりたかった。彼女のことをもっと知って、それでも気持ちが揺るがないか、自分を知りたかった。
 きっと、休み明けの自分も彼女のパーカーを探してしまうだろう。
 いい女になるなんて、必要ない。もう充分、自分にとっては輝いて見える。自分のこれからに悩んで、考えて、自分で答えを出して向かっていこうとする姿がとても綺麗だと感じる。それに、涙を堪えたり、自分の言ったことに恥ずかしがったりする姿は可愛い。

(…充分すぎるくらい、可愛いし、綺麗だよ。)

 見た目への美意識なんて、必要ない。ただ真っ直ぐに前を見つめようとする姿がとにかく可愛いから。
 もちろんこれは、まだ言えないけれど。
 そして酔いにまかせて言ってしまおうかとも思ったけれど言わなかったのは、2年のブランクが自分に恋愛の仕方を忘れさせてしまっていて、どうやって距離を詰めていけばいいのかすらわからなくさせていたのも一因だ。

(それでも、いつかはきっと。あまり遠くない未来に、多分。)
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