美意識革命
(…全然だめだ…森さんが何枚も上手すぎるというか…上手いこと言いくるめられてしまう。)

 森は決して、あなたのためを思ってなどという嘘くさいセリフは言わない。甘えているという感覚そのものを消し去ろうとしているかのような言動と行動に、由梨は反撃できないでいる。

(頭痛いのは本当だし、どっちもいただいちゃおう…。)

 スポーツドリンクを飲み、ゼリーをたいらげる。薬を飲んで歯磨きをし、髪を乾かす。無駄なことは一切せずに布団の中に入った。

「…お礼、言いそびれた…。」

 思い返すと、自分は『すみません』の連呼だった。

(…わかってるもん。そういうところも可愛くない。そこはにっこり笑ってありがとうだってことも、ちゃんとわかってる。)

 理解していることと実践できることは違う。特に自分が恋愛という場においてできないことが思っていた以上に多いということは、この前の件でよくわかった。可愛く甘えられない、頼れない、上手に気持ちを伝えられない。

「次会ったら、ごめんなさいの前にありがとう。これは絶対。」

 もらってばかりだと思う。それも理由なく。だったらせめて、感謝の気持ちは返さなくてはならないと思う。

― ― ― ― ―
(…な、なんだったんださっきの九条さん…!)

 お風呂あがりの姿の女性が可愛い、ということを久しぶりに思い出した。2年のブランクは思っていた以上に大きい。うっかりしていた。
 パジャマですっぴんなんて、おそらく見れるのは彼氏の特権だ。それなのに、彼氏でもないのに見てしまった、この不思議な感覚。

「…可愛すぎでしょ。」

 無防備にもほどがある姿を思い浮かべては、頬の温度が上昇する。そんなことをしている場合ではなく、もっと真剣に彼女の体調のことを考えるべきだと思う良心もいるが、それよりもあの姿ばかりが思い出される。

「…はぁー…可愛い。」

 彼氏という名前が猛烈に欲しくなる。そうすればきっと、心配を募らせるだけではなく、眠る彼女の傍にいられるのに。
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