美意識革命
「…うそ、でしょ…。」

 身体がだるいと思って、熱を測って驚いた。これは信じないで出勤するべきか。

「…38度はおかしいでしょ、測り直し。」

 2度目は無情にも、同じ数字よりも少し高いものを叩きだした。

「…うそ。ありえ…ない…。」

 気持ちとは裏腹に、身体は正直に布団を欲している。そのまま布団に倒れこんで、携帯電話を握りしめた。
 ミスが立て続いているのにここで休むなんて本来ならば言えない。しかし、この高熱でこれ以上のミスを出すのも嫌だった。由梨は意を決して会社に電話をする。

「…九条です。大変申し訳ないのですが熱が出てしまい、本日お休みをいただきたいのですが…。」
「あぁ、由梨ちゃん調子悪そうだったもんね。ゆっくり休みなー。ちゃんと仕事は回しておくから。」
「…申し訳ありません!」
「大丈夫大丈夫。最近疲れてたみたいだし、身体労わってあげてね。」

 優しい上司に恵まれている。そのことに感謝しつつ、携帯電話を枕元に置いた。だるい身体を起こしつつ、病院に行くにせよ何か食べてからでないと、とてもじゃないが外を歩けそうにないため、コンビニに買い出しに行くことにする。
 軽く上着を羽織って玄関のドアを開けると、外側のドアノブにビニール袋がかかっている。こんなことをしそうな人は、近所に一人しかいない。

「…また森さんだ…。」

 スポーツドリンク1本と、ゼリー。昨日とは違うフルーツになっている。それとおにぎりが2つ。まるで今日、由梨が熱を出すことを知っていたかのようなチョイスだ。

「…ありがたすぎでしょ…。」

 由梨はそのビニール袋を取って、部屋に戻った。ありがたく全てをいただいて、病院に行く準備をする。

(…昨日の段階では、熱出そうな感じはしなかったんだけどな…。)

 自分じゃわからないことをなぜか森は見抜いていく。それが不甲斐なくて、悔しい。自分のことくらい自分で管理できないでどうする。これからちゃんと一人でやっていくというのに。意志のある人間になろうとしているのに。
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