美意識革命
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 熱は1日で下がったが、大事をとってジムは3日休むことにした。さすがにぶり返すわけにもいかない。
 そして、由梨の今の悩みは『森に何を返すか』である。

(…どう考えたってもらいすぎ。)

 考え方も、指針も、モノも。森からもらってばかりだ。この状況はまずい。意志のある大人として、ここはきちんとお返しがしたい。ただ問題もある。それは由梨が森についての情報をほぼ持ち合わせていないということだ。
 持っている情報といえば、彼女がいない、2年前に別れたというもの程度だ。居酒屋ではあまり好き嫌いは感じられなかった。これが苦手だと言われたことはなかった。お酒はまあまあなペースで飲んでいたし、割と色々なタイプを飲む人なのだということもわかった。

(…どう考えても情報が少なすぎる…。)

 ふと乗り換えの駅で見えたのは『地酒』の文字。期間限定の特設コーナーができているようだ。見るのはタダ。由梨は立ち寄ることにした。

(…へぇ、色んな種類がある。詳しくないからよくわかんないけど…。口当たりがきつくないのがいいのかな。)

 あまり量が多いと口に合わなかったときに困ってしまうだろうから、小さめのを2つくらいにしようと思い、色々と見て回る。
 瓶のデザインも様々だ。色も綺麗でちょっと可愛い。

(…あんまり可愛いデザインじゃダメか…。難しいな…。)

 悩みに悩んで、2つ選び終え、会計を済ませた。いつも通る駅なのに、買い物をするなんてほとんどなかったため、何だか新鮮な気持ちだ。たまにはこうやって寄り道をしてみるのも悪くないかもしれない。
 お土産用に少しだけいい袋に入れてもらって帰る道は、いつもより足が軽い気がする。
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