美意識革命
― ― ― ― ―

 次の問題が生じた。風邪が治ってジムにきたのはいいものの、まずジム内で渡すのは無理であるという事実だ。森を呼び出して渡すのはおそらくルール違反だろう。

「…どうしよう、私も森さんみたいに袋をドアにかけるってやつにしたいくらいだ…。」

 そんなことを呟いても仕方がない。ジムでの運動を終え、スーパーで食材を買うのは日課になりつつある。

(うーん…どうしたものか。ジムの中でトレーニング以外のことで森に話しかけるのも変だしなぁ…。)

「百面相ですね?」
「も…森さん!」
「また考え事ですか?」
「…そうです。森さんのことです。」
「え!?」
「風邪の件でお世話になってしまったので…。というかお世話になったのはそれだけじゃないんですけど…。」
「あ、あぁ…びっくりした…。そのことですか。風邪、良くなったみたいですね。」
「おかげさまで、熱は次の日に引いたんです。でもさすがにすぐジムに行くのは危ないかなって思って。」
「そうですね。何がともあれ九条さんが元気になってよかったです。」
「…森さん。」
「はい。」

 いいタイミングで現れてくれた森に感謝だ。

「あの、ここにいるってことはお仕事は終わってますよね?」
「はい。夕飯を調達に。」
「えっと、一緒に帰りませんか?」
「え…えぇ!?」
「あ、い、嫌なら大丈夫です。日を改め…。」
「嫌とかじゃないです。全然!早く会計済ませちゃいますね。」
「わ、私も…早めに会計済ませます!」

 とりあえず今日食べるものと明日の朝食べるものだけはかごに放り込んで、会計を済ませる。

「…無理言ってすみません。」
「いえ、大袈裟に驚いちゃってこちらこそすみません。ちょっと意外で…。」
「え、意外ですか?」
「一緒に帰ろうって言われるとは思ってませんでした。」

 そう言ってはにかむ森に、胸の奥がくすぐったくなる。
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