美意識革命
ひとめぼれでは断じてない
― ― ― ― ―

「…あの、今日見学を予約していた九条です。」
「九条様、お待ちしておりました。」

 早速予約をした由梨はジムの中を見回した。新しくできただけあって綺麗だし、意外と広い。

「担当の森です。よろしくお願いいたします。」
「は、はいっ!よろしくお願いします!」

 担当の森は、小さく頭を下げた。由梨も合わせて頭を下げる。

(うわ…ジムのスタッフさんってもっとゴリゴリの人かと思ってたのに…。)

 森は全くゴリゴリではなく、いわゆる細マッチョというやつだろう。適度に筋肉はついている。腹筋が割れているかはちょっとわからない。

(…それに、綺麗な顔…。)

 黒髪の短髪も由梨の好みだし、すっと通った鼻なんかもっと好みだ。目も穏やかで優しそう。

(…って違う違う!男の品定めに来たんじゃない!ひとめぼれしに来たんでもない!)

「こちら、24時間営業のジムです。どの時間帯にお越しいただいても構いません。お仕事のあとなんかに利用されるお客様が多いですかね。」
「そう…ですよね。24時間っていうのはいいですね。」

 その後ロッカーやシャワールーム、様々なマシンの説明を受ける。
 特にこのジムのいい点は、過剰に接客しないことにある。スタッフは聞かれれば答えるが、これをやれ、あれをやれ、こんなコースはどうかなどということは一切言わない。効率は多少悪いかもしれないが、自分のペースで運動ができるというのはなかなかいいかもしれない。

「ここまでで何かご質問ありますか?」
「いえ、大丈夫です!」
「よかったです。」

 にっこり笑うと幼くなる。そんな印象。

(だーから!違うってば!指輪の確認なんかしてないってば!)

 肉体改造の前に、頭の中の改造をしないといけないかもしれない。
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