美意識革命

「あ、あの…。」
「はい。」
「えっと、私も森さんのお部屋がどこか、聞いてもいいですか？」
「え？」
「いやあの…。この前の風邪のときに、ドアにおにぎりとかかけておいてくださったの、森さんですよね。」
「あぁー…はい。」
「それで、そのお返しをって思ってて…もし差し支えなければ、お家の前で待っていただいてもいいですか？届けるので！」
「…いいですか、届けてもらっちゃって。」
「も、もちろんです！」
「じゃあ、部屋の前にいますね。この後ろのアパートです。」
「はい！」

　由梨は階段を駆け上がる。鼓動がいつもよりも少しだけうるさく聞こえるのは、階段を勢いよく駆け上がったからだ。袋を手に取り、家に鍵をかけてから階段を駆け降りる。
　後ろのアパートに向かうと1階の一番奥の部屋の前に森が立っていた。

「お、お待たせしました…！」
「早かったですね。」
「これ、今までのお礼の総まとめです。…全然足りないんですけど…良ければ。」
「ありがとうございます。中身、見てもいいですか？」
「は、はい！」

　森は袋を覗いた。

「これ、お酒ですね。あ、地酒だ！2本も！わぁ～ありがとうございます。」
「…お酒で、大丈夫でしたか？」
「え？」
「あの…私今回、とても反省しまして…。」
「反省、ですか？」

　由梨は静かに頷いた。

「いつもいつも、森さんが私の話を嫌な顔一つしないで聞いてくれるから…森さんの話、全然聞いてなかったなって。あ、違うんです！話したことは覚えているんですけど、森さんの好きなものとか全然知らなくて…。お酒は楽しそうに飲んでいたから…。」
「…なるほど。お酒、大正解ですよ九条さん。ありがとうございます。」

　森の笑顔に安堵する。お酒は間違いじゃなかった。しかし、今後のためにはもっとちゃんと森の話を聞かなければならない。