美意識革命
「…本当はこれじゃ足りないっていうのも、わかっているんですけど。」
「足りなくないですよ。充分です。」
「いやいや!そんなわけないじゃないですか!」
「どうしてです?この前の居酒屋はきっちり割り勘でしたし、僕が九条さんにあげたのってそんなに高くないものばっかりですし。」
「いやでも、私お酒2つだけです。」
「たくさん悩んで、考えてくれたってのがお酒よりも嬉しいって言ったら、九条さん、怒ります?」
「…お、お…怒らない、ですけど。」
「よかった。だから、同じくらいですよ。充分足りてます。」

 またもらってしまう。もらいすぎてしまう。気遣いを。

「…あげてもあげても、追い付けそうにないです。」

 由梨は深く息を吐き出した。

「え?」
「森さんがくれる優しさは…ぬくもりですよね。あったかい感じがします。だからつい、もらいすぎてしまうんですよ。…なので私は追い付かないんです。」
「…そんなことないですよ。」
「そんなことしかないです。」
「言い返しますね。」
「…そ、そんなつもりでは…。」
「全部、僕がしたくてしたことなんで。それで、九条さんは助かりましたか?」
「はい。とっても。」
「だったら僕があげたものも正解だったんですね。よかった。」

 言葉のひとつひとつをきちんと受け止め、掬い取ってもらえる。それが自然とできる森だからこそ、甘えている自分がいることは、ちゃんとわかっていた。

(…うーだめだ。何を言っても勝てる気がしない。)

「森さん!」
「なんですか?」
「森さんの好きな食べ物、教えてください。」
「と、突然どうしたんですか?」
「情報収集です。私、次は今回みたいに迷いたくないので。」
「…次、あるんですか?」
「え?」
「…なんでもないです。好きな食べ物…そうですね、臓物系以外は何でも食べれます。」
「違います!食べれるものじゃなくて、好きな食べ物です!」
「…うーん、チョコレート?」
「え…可愛いですね、森さん。」
「男に可愛いなんて言っちゃダメです、九条さん。」
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