美意識革命
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 由梨はというと、真剣にチョコレートを選んでいた。この夏にチョコレートというのも変な話ではあるが、森の好きな食べ物がチョコレートだということを聞いてしまったからにはこれしか選択肢がなかった。

「…色んな味が楽しめる方がいいかな…。同じだと飽きるもんなぁ…。」

 なんとか一つに絞り込む。物は買った。あとは想いの整理だ。
 結局自分はどうしたいのか、と考える。それと、何を思っているのか。なぜあの時、あんな態度をとってしまったのか。
 …一番に、謝りたい。森の気持ちが迷惑だったわけではもちろんない。嬉しかった。そんな風に想ってもらえたことが、純粋に。ただ、驚いてしまったのだ。異性に好かれる自分が想像できないから。
 じゃあ、森と付き合いたいのかというと、それにも自信がなかった。今の自分が森と対等に恋愛できるとは思えないし、そもそも前に失敗したことを上手く改善できる自分になれているのかもわからない。前とほぼ変わらないままの自分で、新しい恋愛に踏み出すことが怖い。
 …自分は、怖いのだ。新しく恋をすることが。誰かを好きになることが。離れていく痛みを知っているからこそ。その痛みがまだ消えていないからこそ。…怖い。
 こんな答えのない気持ちを森に伝えてもいいのだろうか。もう1ヶ月近く、気まずいままで、毎日これ以上延ばせないと思いつつ、延ばしてしまっている。
 逃げている自分は、意志のある人間とは言えない。

『こうありたいから、努力するとか。そこに自分がある人がいいなって思います。』

 ふと、森が言ってくれた、自分の意識に革命を起こしてくれた言葉を思い出す。

 どんな関係になってしまうにしても、森がいいと思ってくれる人になりたい。
 由梨は覚悟を決めた。
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