美意識革命

「どうぞ。」
「お邪魔します。」

　この日のためにそつなく片付けたはずだ。まずはエアコンをつける。

「あ、座ってください。えっと、ソファがいいですかね。」
「じゃあ、お借りします。」

　決して大きいとは言えないソファに森が座った。由梨は意を決して、丸テーブルごしに正座した。

「…え、正座ですか？」
「…え、変ですか？」
「これじゃあ僕が九条さんを叱るみたいですよ。」
「…叱ってもらえた方が、いいくらいです。」
「叱るところないですよ。」
「…ま、待ってください、まずお茶！何飲みますか？冷たいものだと麦茶くらいしか…。」
「麦茶、好きです。お願いします。それと…。」
「はい？」
「できれば、隣に座って話をしてもらえると嬉しいです。」
「う…わ、わかりました。」

　そう言われてはできないなんて言えない。由梨は麦茶をグラスに注ぎ、静かに森の前に置いた。そして、森の隣に座った。もっと大きめのソファにすればよかった。油断をすると肩がぶつかってしまいそうだ。

「…な、何から言ったらいい…ですかね。」
「何でも。九条さんが話したいことからでいいですよ。」
「じゃあ、最初に謝りたいです。…逃げるみたいな…いや、完全に逃げなんですけど、そんな失礼な態度をとってしまって、ごめんなさい。あの時の私には…いや、あの今の私もそんなには変わらないんですけど…、でも、あの時の私には特に、冷静さがなくて、ここまでずるずると逃げてしまいました。…ごめんなさい。」

　偽りはどこにもない。逃げたことは事実で、それを認めなくては進めない。

「…僕もごめんなさい。こんなに長い期間、悩ませたり辛そうな顔をさせるつもりはなかったんです。言うタイミングを間違えたのは僕です。」
「…お、驚いたんです。森さんがそんな風に想ってくれてるなんて、考えたことがなかった…から。」
「…そうでしたか…。僕、わかりやすく好意を示してたと思ったんですけど…。」
「え…え！？」
「いやでも、伝わってなかったのは僕の落ち度です。…というか、本当はあの時に言うつもりも…なかったんですけど。」
「そ、そうなんですか！？」
「…なんか、するっと出ちゃったんですよね。…考えなしに、ごめんなさい。」

　森は深く頭を下げた。謝るべきは森じゃないのに。