美意識革命
「…違うんです。森さんは本当に、全然悪くなくて…。う、嬉しかったです。まさか森さんに…嫌われているとは思ってなかったですけど、…でも、隣を歩きたいって言ってもらえたのは、嬉しかったです。ありがとうございます。」

 今度は由梨が頭を下げた。

「…迷惑じゃなかったですか?」
「まさか!迷惑ばかりかけていたのは私です。森さんじゃありません!」
「そんなことないです。迷惑だなんて思ったことはないです。」
「…それは、森さんが優しすぎるからです。…だから、私は…。」

 由梨は俯いた。話したいことはたくさんあって、ちゃんと考えてきたはずなのに、ここで声が詰まるなんてあってはならない。
 沈黙が落ちる。由梨のターンはまだ続いている。言葉はある。想いだって、ある。
 そっと、森の手が由梨の握りしめた拳の上におりてきた。

「え…?」
「…大丈夫ですよ、九条さん。そんなに力を入れて話さなくて。時間もあるし、最後まで何があってもちゃんと聞きます。それに、この際だから僕の話も聞いてもらいます。だから、大丈夫ですよ。ゆっくりで。」

 きゅっと強く握られる。涙が出そうだ。まっすぐに向き合って、大切にされるってこういうことを言うのだろうか。だとしたら、安心できて前を向こうと思える力はきっと、ここからもらうのだろう。

「…だめです、泣きそう。」
「泣いてもいいですよ。」
「そうやって…森さんは私の涙腺を刺す…。」
「ま、また刺してしまいましたか?」
「…だめです、涙出てきました。」
「…じゃあ、ちょっとだけ、…抱きしめていいですか?」

 今、話せそうにない。由梨はそっと頭を森の胸にあずけた。森の右腕が優しく由梨を引き寄せる。重みから察するに左手は頭の上に乗っているようだ。その手が少し遠慮がちに頭を撫でてくれる。
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