美意識革命
「僕は多分、九条さんが思っているよりもすごい人間じゃないです。普通にたくさん失敗してきたし、人を傷付けたし、落ち込んだし。そこからものすごく学んだわけでもないです。」
「…そう、なんですか。」
「前の彼女と別れた時も、落ち込んだけど…九条さんほど真面目に考えなかったかもしれません。…僕には、九条さんは眩しい。」
「まぶ…しい?」

 腕の力は緩んだ。由梨は顔を上げて森を見つめた。すると森は優しく微笑んだ。

「自分磨きに一生懸命で、それが合ってるか間違っているかも立ち止まって考える。強い意志なら、ちゃんと最初からあったと思いますよ。気付いていないだけで。でも、気付いていないからこそ考え続けることができるんだとも思いました。それに…。」
「な、ん…ですか?」

 森はより優しく微笑む。

「九条さんは最初からずっと、優しくて可愛かったです。可愛げないなんて、それは間違ってますよ。」
「…ま、間違ってません!女の子らしくできないし…!」
「また絡まってますね。女の子らしくなくたって、僕には九条さんがすごく可愛く見えます。」
「っ…!」

 顔が急激に熱くなる。どうしてこんなことをさらりと言えてしまうのだ。

「…そういう顔も可愛いし、涙を堪えようとするところも可愛く見えて仕方がないんです。だから、頑張りすぎないでって言いたくなってしまう。…隣にいたら、気付けるかなって思うから。」

 連呼される『可愛い』に、耳まで熱くなってきた。言われ慣れていないせいもある。とにかく恥ずかしい。嬉しくないということではないけれど。

「九条さんは、可愛いんです。」
「…も、もう、大丈夫です。これ以上言わないで…。」
「だって、九条さん、全然認めないじゃないですか。」
「…可愛さって自分が認めるものなんですか?」
「…どうなんでしょう。少なくとも僕は九条さんの可愛さを知っています。」

 突然押しが強くなった森に、頭が沸騰しそうだ。これ以上何か言うつもりなら少し待ってほしい。
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