美意識革命
「…一応、色々頑張ったのに、全然伝わってなかったですしね。」
「…お、怒ってますか?」
「そういうところも可愛いですけど、そもそも僕は恋愛対象外だったってことですよね?」
「だ、だってとてもじゃないけどつりあわないです!」
「そうですか?そんなことないと思いますけど。」
「森さん!自分がどれだけハイスペックかわかってますか!?」
「いやぁ全然。僕、ロースペックです。」
「そんなはずありません!」

 一生懸命抗議しているのに抗議されている側は嬉しそうだ。何だか腑に落ちない。

「なんで笑ってるんですか!私は真面目に…!」
「知ってます。いつでも真面目、全力。だから僕は九条さんが好きです。」

 まっすぐな言葉たちに、凝り固まった『女の子らしさ』が溶けていく気がする。突然涙が込み上げてくる。

「…森さんは、ずるいです。」
「…泣かせちゃいましたか。どうしてか教えてください。」
「…ぐさぐさ容赦なく刺してくるのに優しいからです!」

 森の腕に力がこもる。もう身体はすっかり安心して身を任せてしまっている。心だってそうなのに、自信というハードルのせいで素直になれない。

「九条さん。」
「はい。」
「お願いがあります。」
「…なんでしょう。…ひっく。」
「わぁ…思ったより泣いてる。…大丈夫ですか?目、こすっちゃだめです。」

 こすろうとした手を優しく掴まれる。

「…お願い、何ですか?」
「これから少しずつ、2人で過ごす時間を増やしてほしいです。一緒に出掛けてもみたいです。」
「…はい。」
「まだお願いがあるんですけど。」
「…どうぞ。ひっく。」
「2人のときは、由梨さんって呼んでもいいですか?」
「…いいですけど、私、森さんの下の名前知らないです。」
「寿人(ひさと)っていいます。教えたので呼んでもらえるんですね。」
「あ、え、い、いや!そういうことじゃないですけど!」
「まぁいいです、そこは。由梨さんが呼べるようになったらで。」
「…森さんはやっぱり大人です。」
「最後のお願いです。」
「…はい。」

 森はもう一度、額を重ねた。そしてゆっくりと目を合わせてくる。

「…2人のときは敬語、外してもいい?」
「…ど、どうぞ…。」
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