美意識革命
「お…お待たせしました。」
「は、早かったね…。」
「頑張りました。あ、でも髪はちょっと乾かなくて…生乾きです。あとでドライヤーかけます。持ってきました。」

 23時52分。由梨はパジャマのまま家から走ってきたようだった。由梨はそのまま、森の隣に腰掛けた。

「…森さん。」
「な、なに?」
「ずっとずっと、中途半端な態度でごめんなさい。今日泊まるって決めたのは、…自分なりのけじめです。」
「…帰っちゃうかなって思ってた。」
「帰らないです。だって、森さんの誕生日、祝いたいです。」

 由梨はまっすぐに森の方を向いた。

「…すっぴんで言うことじゃないってわかってるんですけど、いい加減私も、…臆病でいるのやめないと…ですよね。たくさん待たせて、…本当にごめんなさい。」
「由梨…さん?」

 自信が完璧にあるわけではない。でも、森が可愛いと言ってくれるたびに自信が積みあがっていった。もう充分すぎるほどに。そろそろきちんと、想いに想いを返したい。

(私のちっぽけな美意識なんて、森さんの前じゃ無意味だ。)

 森の言葉が、由梨の『美意識』に革命を起こしていった。可愛いはちゃんと、自分の中にあることを見てくれた。言ってくれた。向き合うことをやめないでいてくれた。そのままでいい、と言ってくれた。

「私を、森さんの彼女にしてください。」

 声が震えた。そして言った後に頬に急激に熱が集まってくる。それは目の前の森も同じようだった。これまで見たどんな森の顔よりも、今日が一番赤い。

「森…さん?」
「…最初からそれ、言うつもりで戻ってきたの?」
「…はい。今日こそ…今日だめだったら明日は絶対って思ってました。」
「…なにそれ…。パジャマだけでも充分可愛いのにもう無理。我慢の限界。」
「わぁ!」

 ぎゅっと強く抱きしめられる。尋ねられずに抱きしめられるのは初めてだ。森が肩口にすりすりと顔を寄せてくるのがなんだか可愛い。そして、腕の強さに我慢を知る。たくさん待たせてしまった。
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