美意識革命
秘密の共有者
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 週4回、仕事帰りに2回と土日には必ずジムに行くという習慣を続けて2週間。森には会ったり会わなかったりだ。とはいえ、意外と一気に多くなった客のなかで由梨のことだけを特別に覚えてくれていることはないとわかっているけれど。

(よし、いい感じに減量できてる。一気にじゃなくてじわじわと。)

 お腹の肉も少し減った感じがするし、何より身体を動かすのは気持ちがいい。動かしている間は余計なことを考えずに済む。たとえば、元カレのことなんか。
 だめだとわかっている。考えたって無駄だと、考えれば考えるほど、負のループに陥ってしまうこと。だからこそ考えてはだめなのだ。たとえどんなに由梨が考えても、その考えに対して答えが返ってくることなんてないのだから。

(う…だからだめだってば。考えちゃ、だめ。)

 ジムの帰り道、じわりと込み上げた涙。息を整えたくて、近くの公園のベンチに腰掛けた。このまま家に帰ったら大きな声をあげて泣いてしまいそうだ。それこそ不毛だ。泣いたって意味なんかない。

「はぁ…。」

 どうしてこうなってしまったのだろう。どうすれば別れないで済んだのだろう。嫌いじゃなかった。少なくとも自分は。ちゃんと好意も伝えていた、と思う。何が原因で、何がだめで、何を直せばよかったのか、自分に問いかけてはわからなくて身動きが取れない。無駄なのにその思考を止められなくて、由梨は空を見上げた。星が点々と輝いているはずなのに、涙で滲んでよく見えない。

「…九条、さん?」
「え?」

 ふと、自分に掛けられた声。タイミング的には最悪だ。
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