極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
「ここ、耀さんがやってるカフェなんだ。元々はおじさんとおばさんがやってたとこだから、俺も小さい頃から馴染みがあって」
昔を懐かしむように細められた雪さんの瞳はとても穏やかで、ここが大切な思い出の詰まった場所なのだと感じられた。

ん?小さい頃からってことは…

「ごめん、茜に言ってなかったね。耀さんとユウと俺幼馴染みなんだ」
すぐに話が見えなくて考え込んでいると、気が付いた雪さんが付け加えてくれる。

私、まだまだ知らないことたくさんあるんだな…

雪さんのことで私が知らないことがあって、私のことで雪さんが知らないことがある。
出会うまで別々の人生を歩んできたのだからそれは至って当たり前のことで、おかしいことじゃない。

でも…なんだか少し寂しいなんて思ってしまう。
欲張りだなぁ、私。

そんなことを考えながら案内してくれる耀さんに付いて室内を抜けると、そこには海を一望できる絶景のテラスが広がっていた。
まだ2月の後半だというのに今日は春みたいに温かく、気持ち良く降り注ぐ日差しが反射して水面はキラキラと輝いている。

「今日は茜ちゃんと雪の貸し切りだから、なんにも気にしないでゆっくりしていってね」
勧められた濃紺のクロスが掛けられた真っ白なテーブルを挟んで、形のいいグレーの椅子に腰を下ろす。
日差しよけに付けられた天蓋もなんとも言えず可愛くて、乙女心をくすぐられた。

「茜、気に入った?」
「はい!もっのすごく可愛いです!」
「それはよかった」

目の前いっぱいに広がる綺麗な景色を眺めながら雪さんと過ごす時間は、驚くほどあっという間に過ぎていった。

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