極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
…って、いやいや!

取り巻く何もかもを綺麗に浄化してしまいそうな槙くんの笑顔に、思わず頼り切ってしまいそうになる自分を叱咤する。

「早速後輩に気を遣わせちゃうような頼りない先輩でごめんね。…あ、これもらうね」

苦笑交じりに呟いてから槙くんが差し出してくれていたコーヒーを受けとろうと手を伸ばす。
瞬間、触れた指先に槙くんがぐっと力を込めるのがわかった。

「そんなことないです」
「槙くん?」

小さな声が聞こえて確かめるように名前を呼ぶと、ばっと顔を上げた槙くんの瞳が真っすぐに私を見つめた。

「さっきの会議だけで柏木先輩が真摯に仕事に向き合ってることとか、一つひとつのことに一生懸命なこととか、ものすごく伝わってきたし、それに…」
「ち、ちょっと待って、ストップ!」

突然弾丸のように飛んできた褒め言葉の嵐にいたたまれなくなり、思わず彼の顔の前に勢いよく手のひらを広げた。

「わかったから、その…それ以上言われると恥ずかしくて顔から火が出そう」
「あ、すみませんつい…」
「ううん、びっくりしたけど嬉しかった…ありがとう」

なんていうか、真っすぐないい子なんだなぁ…

今日会ったばかりなのに不思議な感じだけど…そんなことを考えていると、不意に強い風が吹いた。

「先輩…髪が」
「え?」
瞬間、槙くんの顔が近付いて…彼の手が髪に触れる。

「あ、ありがとう…」
「いえ…じゃあそろそろ戻りましょうか」

びっくりした…

乱れた髪を整えてくれただけ、そう思うのに…一瞬こちらに向けられた彼の瞳が見たこともない色を帯びた気がして。
だけど離れた時にはもう天使の微笑みに戻っていたから、気のせいだったのかと思い直して会議室へと戻ることにした。
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