極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
「はぁ、どうしよう…」

昨夜、頼もしい親友2人に背中を押されて返事を打ち込むまではしたものの。
最後の送信ボタンをなかなか押せずにいた私は、給油室でコーヒーを片手にその画面を眺めていた。

「柏木さん」
そんな時、突然聞こえたその声に思いっきり肩が揺れ、気が付いた時には私の親指は送信ボタンを押したあとだった。
さらには聞こえてきたその声の主が今私の頭を悩ませる張本人のものだったせいで、心拍数も上昇していく。

「相沢社長、どうしてここに…」
「編集長と打ち合わせに来てたんだけど、終わったから。茜ちゃんに会いに来た」

さらりとそんな台詞を口にしながら近づいてくる彼に後ずさるけれど、すぐに背中が壁に触れ、私はそれ以上逃げられなくなった。

「何もせずに待ってるのは性に合わなくて」
口元に弧を描きながら伸ばされた手が顔の横につかれて、壁との間に挟まれる。

「俺、茜ちゃんのこと本気だから」
優しく髪を耳にかけられて、少しずつ近付いてくる彼の顔。
思わずぎゅっと目を瞑ったけれど、温かいものが触れたのは予想とは違う場所だった。

「じゃあ土曜日に。仕事頑張ってね」
目を開けると、にこっと微笑んだ彼が私からの返事を受け取った携帯画面を嬉しそうにひらひらさせている。
それからゆっくりと踵を返した彼の背中を見送ってから、額に残る熱を指でなぞった。

今、私…何を期待してた?
無意識な自分の行動と思考を振り切るように、思い切り首を横に振る。

もう心臓もたないよ…

…それから約束の土曜日がやってくるまでは、あっという間だった。
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