極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
「ん…っ」

心地の良い風を感じて、なんだか少し重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
暗い部屋に差し込む月明かりに導かれるように身体を起こすと、ベランダの外に立つ後ろ姿が目に入った。

相沢、さん…?

手すりに肘をついた相沢さんは緩慢な動作で火のついた煙草を口に運んだ。

あ、煙草吸うんだ…

今までに見たことがなかったせいか、なんだかイメージとはちぐはぐに思えて。
少しだけ落ち着かない気分になりながら立ち昇る紫煙を眺めていると、ベッドが小さく軋んだ。

「あ、ごめん起こしちゃったかな?」

音に気が付いてこちらを振り向いた相沢さんの柔らかな髪が、ふわっと風になびく。

「見られちゃったな」
困ったように微笑んだ相沢さんが、煙草を灰皿に押し付けた。

「隠してるんですか?」
「いや、別に隠してるわけじゃないんだけどね…かといって大っぴらに吸ってるわけでもないというか」

はは、と笑う彼の後ろで時間の経過を感じさせるように綺麗な星が瞬いて、逸れた思考を引き戻す。

「それで…あの。ここは一体…」
「ん?あぁ、俺の別荘だよ」
「あぁなるほど、別荘…って、え!?」

ちょっと待って、私どうやってここに…
ランチして、ドライブして、確か相沢さんが予約してくれてたレストランで食事して…

「ご、ごめんなさい!」
「いや、この前のことがあったのに飲ませた俺もごめん」
ワインを飲んだところで途切れた記憶に、この前と同じ失態を犯したことに気付いて頭を下げた。
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