極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
「ふぅ…」
部屋に戻って携帯を取り出そうと開いた鞄の中にあるポーチが目に入り、そっと中身を手のひらに取り出す。大切にしまっていたそれは、雪さんからもらった合鍵だ。

声、聞きたいな…

携帯の画面は開いたものの、目を向けた時計の針はすでに夜中の12時を指している。
やっぱりやめようと、通話ボタンに添えていた指を離そうとした…まさにそのときだった。

「うわぁっ!」
突然震えた携帯電話に驚いて、そのまま指が通話ボタンを押したらしい。

『もしもし?』
「もっもしもし!」

通話中に画面が切り替わった携帯の電話口から聞こえたその声に、慌てて返事をする。

『ふふ、どうしたのそんなに早口で』
「実は今ちょうど雪さんに電話をかけようか迷っていたところで…そしたら電話が鳴って、びっくりしちゃって」
『そうだったの?声が聞きたいと思ってたの俺だけじゃなかったってことかな?』
「…っ、はい」

電話越しだとなんだかいつもより素直になれてそう返事をすると、嬉しそうな雪さんの声が返ってきて。それだけでふわっと幸せな気持ちになった。

『今何してた?』
「あ、今日は飲みに行ってたので実はさっき帰ってきたところで…いつもはこんなに遅くないんですけど」
『そうだったんだ。…でも、飲みすぎて寝ちゃうのは俺の前だけにしてね?』
「っ、はい…承知してます」
『ん、いいお返事です』

赤くなった顔を見られなくてよかった…そう思ったけれど、電話口で笑う雪さんには全てバレているような気もして、なんだか余計に恥ずかしくなった。
< 64 / 208 >

この作品をシェア

pagetop