極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
タクシーの運転手に行き先の変更を伝えると、秋ちゃんは持っていた携帯をぽんっと私の手のひらに置きながら微笑んだ。何も言えずにいる私をなだめるように、落ち着けるように。

「悪いようにはしないから、安心しろ」

携帯越しに重なった秋ちゃんの手のひらからかすかに温もりが伝わってくる。
向けられる秋ちゃんの表情は、私が昔から知っている優しい幼馴染みのお兄ちゃんそのものだった。


――ほどなくタクシーは、とあるホテルの前で停車した。

「え、ここ…?」
さすがに私でも知っている都内でも有数の超が付く高級ホテルの前で。

「秋ちゃん私、このホテルに裸足で入る勇気も…あの、さっきみたいにおひめさま…」
「あぁ、お姫様抱っこ?」

言い淀んだ台詞を目の前でさらっと言われて、先ほどの光景が脳裏に蘇る。
熱くなった頬を隠すように抗議の声を上げようとしたけれど、それもまた秋ちゃんによって遮られた。

目の前に置かれたそれは品のいいパンプスで。オフホワイトに繊細なブラックのペインテッドレースが施されたその靴は一目で女性の目を引くような、そんな素敵なデザインをしている。

「え?これ?」
わけがわからず、パンプスと秋ちゃんを交互に見つめる。

「サイズ合うといいんだけど。履いてみて」
「う、うん…」

促されるまま、足をパンプスに入れていく。
サイズがぴったりなのを確認して、秋ちゃんがほっとしたように息を吐いた。
< 83 / 208 >

この作品をシェア

pagetop