極上求愛~過保護な社長の新妻に指名されました~
――従兄弟同士の樹と俺が初めて茜に会ったのは、俺たちが5歳、茜が3歳の時だった。
親同士が同級生で仲が良く、たまたま親に付いて茜が家に遊びに来たのがきっかけで。
すぐに仲良くなった俺たち3人はそれから頻繁に遊ぶようになった。
妹がいなかった俺たちは茜のことを本当の妹みたいに可愛がった。
おじさんとおばさんが驚くくらい茜も俺たちに懐いてくれて、高校卒業までのほとんどの時間を3人で過ごした。
けれど別々の大学に進学したことで、俺たちの関係は変化した。
茜と樹が付き合い始めたのだ。
それを知ったとき、初めて自分が茜のことを好きだったことに気が付いた。
けれど困らせてしまうのがわかりきっていたから、俺は思いを閉じ込めた。
…なんて、3人の関係が壊れるのが怖くて、気持ちを伝えられなかっただけなんだけど。
思い返せば、たぶん出会った頃から茜に引かれていた。
ころころと変わる表情や、どんなときも周りの人を大切にする優しいところ。
一緒にいればいるほど、茜は俺の気持ちを持って行った。
そして2年前、アメリカ留学を決めた樹は茜と別れる決断をした。
樹は付いてきてとは言わなかった。
茜も行かないでとは言わなかった。
そうして茜は樹が日本を発つまで、決して泣かなかった。
空港で樹の乗った飛行機を見送りながら、そこで初めて静かに涙を流していた。
必死で強がる茜をただ支えたくて、傍にいた。
まだ樹のことを好きなことが、茜の頬を伝う涙から痛いくらいに伝わってきたから。