極上求愛～過保護な社長の新妻に指名されました～
昔話から俺の思考を引き戻したのは、扉をノックする音だった。
日付が変わる前に…と後輩に頼んでいたルームサービスにしては早すぎて、それがもう一つの可能性であることを予感させた。

「はい」
ゆっくりと返事をして、扉を開ける。
そこには肩で息をする、今まで見たことがないくらい余裕のない表情をした相沢さんが立っていた。

「茜は？」
「今風呂に入ってます」
俺の言葉を聞いて、相沢さんが一瞬大きく目を見開く。
部屋の奥には、ハンガーに掛けられた茜のブラウスが干してある。きっとそれも目に入っているはずだ。

普通の男なら、ここで動揺しても取り乱しても決しておかしくはない。
他の男と２人きりでホテルの部屋にいる彼女が着ていた服が部屋にあって、ましてや本人は風呂に入っているのだから。
…けれど、相沢さんはすぐに落ち着きを取り戻して口を開いた。

「茜が出てくるまで、部屋の中で待たせてもらってもいいかな？」

他人の言葉より、見せられたものより、茜本人の言葉を信じるってことか。

「ええ、もちろんです。どうぞ」
相沢さんを部屋の中へと案内し、リビングルームの椅子を勧める。

「よくわかりましたね、ここ」
「久しぶりにこんなに必死になったよ」
声色は落ち着いているように聞こえるけれど、本心はそうでないようにも見える。
< 96 / 208 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop