君を忘れるその日まで。


「……鹿だね」


「奈良公園だからね」


目の前の光景に圧倒されている佐城さんに答えると、彼女はゆっくりとこっちを向く。


「鹿せんべい……あげていいかな?」


「いいんじゃない。クラス行動なのにみんな鹿に夢中みたいだし……」


遠目で鹿を見ているクラスメートたちに視線を移せば、楽しそうな担任の姿が目に入った。


「それに先生のあの様子だと、しばらくはここにいることになりそうだから」


「じゃあ、買ってくるねっ」


珍しく興奮ぎみの佐城さんを見送れば、彼女は素早い行動であっという間に鹿せんべいを買って戻ってきた。

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