君を忘れるその日まで。


「早いね。そんなに鹿が好きなの?」


「好きっていうか……島で見るのは魚ばっかりだから、みんな興味があるんだよ」


「なるほど。確かに、あの島には山の動物は充実してないね。それで?君はいつまで俺の隣で立っている気なの?」


「…………」


「鹿せんべいは、人間はあまり食べない方がいいらしいよ」


「自分で食べるために買ったわけじゃないから」


「それなら早くあげてきなよ」


「……どうやって近づけばいいのかわからない」


「腕に抱え込んでる鹿せんべいの袋を見せれば、向こうから寄ってくるよ」


なかなか一歩が踏み出せない佐城さんの背中を軽く押してあげれば、彼女は鹿のいる方に恐る恐る近づいて行った。

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