君を忘れるその日まで。
今日、班で回ったほとんどの場所に、俺と彼女の思い出があった。
落ちていた記憶を拾っていく度に、鮮明になっていく1年分の俺と彼女。
やっぱりまだその姿は思い出せないけど、記憶の中の彼女を思うだけで、不思議と心が音を立てた。
俺にとってきっと、彼女は大切な存在だったのだろう。
良き友達か、もしかしたらそれ以上か…
「…それはないな」
昔からそういうことに興味のない俺は、未だに初恋もしたことがない。
だから忘れている1年分の自分の中にそんな感情があったかもしれないなんて、可能性としても考えられなかった。
「友達……、」
ポツリと呟いた自分の言葉に、俺はなぜだか違和感を覚えた。
俺にとっての良き友達は、前の席の佐城さん。
何気ない会話や相談だって、気を遣うことなくできてしまう。
俺の良き理解者であり、大切な存在の1人だ。
でも彼女は、違う気がする。
大切な存在だということはわかるけれど、友達という定義には当てはまらないような感覚。
かといって、明確な関係性を示せるわけでもない。
「明日も、色々思い出せたらいいな…」
姿の見えない彼女を思いながら呟かれたその言葉は、勢いを失った雨が振り続ける夜景に溶けていった。