君を忘れるその日まで。


昨日行った奈良には、忘れていた彼女の記憶が沢山落ちていた。


奈良公園に東大寺や春日大社。


行く先々で思い出す彼女の記憶に、京都でもそれが見つかると思っていた。


「14時35分……」


右手に付けていた腕時計は、いつの間にか時がすぎたことを知らせている。


今日の自由行動の時間は、夕方の6時まで。


「……もう思い出せないかな」


諦めかけて、腕時計から視線を上げたその時だった。


「次はどこに行きたい?」


「うーん…あ、ここ!」


「おっ、いいね!あたしも行きたい!」


「んじゃ、みんなで歩いてこーぜ」


「さんせーい」


それはどこにでもいる、普通の学生グループの姿だった。


手に持った案内図に目を通しながら話し合う彼らは、他の学生たちと同じようにただ歩いている。


「…………」


けれどその姿に、気づけば俺はまばたきすら忘れて見入っていた。

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