君を忘れるその日まで。
『祐樹!清水寺、すっごい綺麗だったね!』
前を歩く彼女が、嬉しさを醸す背中を揺らしながら緩やかな坂を降りていく。
『そうだね。前に来た時は工事中で見れなかったから、見れてよかったよ』
『おっ、その様子だとクールくんも少しは感動したのかな?』
『クールくんて何。自分の名前を変えた記憶はないんだけど』
『そっか、そっかぁ〜。祐樹も感動したんだねぇ〜』
『人の話を聞きなよ』
『ふふっ、よかったよかった』
『……ちゃんと前を見て歩かないと、いつか転ぶよ』
浮かれ気分でぴょこぴょこと歩いていく彼女に呆れながらそう声をかければ、彼女は笑みを浮かべた。
『だいじょうぶ、だいじょーぶ!このくらいの坂で転ぶなんてバカなことは──…あ、』
『……!』
しまったというように体を傾けていく彼女に、俺は慌てて手を伸ばす。
『……っ』
そして彼女の腕を掴み、急いで重心を逆に傾けて自分の体で彼女の重みを抱きとめた。
『危なかった……』
『あ、はは…ありがとう』
『このくらいの坂で転ぶバカは、もっと気をつけながら歩きなよ』
『うぐっ……はい…』
自分の腕の中で反省の色を見せる彼女に、心拍数が上がってくる。
『……もう1人で立てるよね?』
『あ、うん!』
寄りかかっていた重みがなくなると、空いた両手が寂しさを覚えたように冷たく感じられた。