君を忘れるその日まで。
記憶が、鮮明に蘇ってくる。
今まで曖昧だった過去が、はっきりと思い出せる。
学校から家までって、こんなに長かったっけ……。
走っているからいつもより速いはずなのに、
体感する距離がとても長く感じられる。
上がっていく自分の体温と荒くなる息遣いに、予期せず笑みがこぼれてくる。
一瞬で溢れてきた。
やっと、思い出した。
「ぜんぶっ……思い出した…っ」
外気に触れてすっかり冷たくなってしまった自分の頬を気にすることもなく、たどり着いた家のポストを開ける。
手探りでつかんだ紙の束の中には、淡いピンク色の封筒が変わらず存在していた。
俺はバッグから鍵を取り出して家のドアを開けると、チラシや広告を無造作に靴棚の上に置いてピンク色の封筒だけを手に持つ。
そして靴を脱ぐことも忘れて、玄関に立ったまま封筒を開いた。