溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「切ないよなぁ。ずっと見守ってきたのに、本人はまったく覚えていないんだから」

「うるさいよ」

「はっきり言やぁいいじゃないか。君の大切な〝あしながおばさん〟の息子だって。そしたらすぐに思い出すだろうに」

「それでは意味がない」

「そうかな」

 そうだよ、と投げやりに答え、真壁はコーヒーを飲み干した。

「〝あしながおばさん〟という存在と言葉に引きずられて僕を受け入れたって意味はない。お前なら僕の気持ちがわかるだろう。我々に群がってくる女性の多くがステータスに魅力を感じているだけだってことをさ」

「それは確かに」

「マリはそうではないだろうけど、残念ながら出会うのが遅かった」

「たった一つしかない心の椅子にはもうすでに別の女性が座っている、ってね。十四年前の出会いだなんて知れば、アンフェアすぎて言葉もないだろうな。しかもその意中の男が片想いで悩んでいるなんて釈然としないだろうが。ま、健闘を祈るよ」

「大きなお世話だ」

「そう言うな。おっと、そろそろ行かないとマズい。じゃあ、この件は頼んだ。またな」

「あぁ」

 指さされたクリアファイルに真壁が手を置いて応じる。そして次の仕事に向かう親友の背を見送った。

(出会ってから十四年か・・長いようであっという間だった。今から数年なんて、きっと瞬く間だ。それくらい、いくらでも待てる。それに椿はもう僕の手の中にいるんだから)



3章 王子さまにはプリンセスがいて 終
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