溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「えぇ。わたしもそう思います・・匠さん、食事は本当に不要?」

 九時前だ。食事はいらないと言われていたが、話題を変えたいので尋ねてみると、真壁は「食べてきた」とネクタイを外しながら答えた。

「じゃあ、コーヒーは?」

「ありがたいね。淹れてくれている間に着替えてくる」

「はい」

 広い背中に聞きたいことがいっぱいある。だが、こわくて口にできない。

 もし、怒らせてしまったら?

 もし、もうお前は不要だと言われたら?

 もし、バレてしまったか、とつぶやかれたら?

(どれも立ち直れない・・)

 椿はコーヒーの香りに包まれつつ、ぼんやりと思った。

(わがままよね、傍にいさせてもらえたらそれでいいって思っていたくせに)

 コーヒーメーカーからコポコポという泡立つ音が途切れて静かになった。マグカップに注いで真壁がやって来るのを待つ。するとスマートフォンが鳴った。とはいえ、すぐに消えたのでメールの着信だとすぐにわかった。

(マリさんだ)

 展開してぎょっとなる。

『つばき、こんしゅう、いつ、ひま? ごはん、たべに、いきましょう!』

 会話はぺらぺらでも書くほうは難しいとみえる。それでもこうやって意思を伝えることができるのだから、素直にすごいと思った。

(わたし、英語は読むのも書くのも苦手だったわ。でも・・ごはんって・・ちょっと)

 はぁ、とため息を落とすと、目の前に影が落ちた。
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