溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 椿は身を起こし、ベッドの上に座り込んでスマートフォンを持ち直し、電話帳を展開した。そして叔母の番号をフリックする。すぐにコール音が響き始めた。

『椿、どうしたの?』

 いつもの変わらない声。椿はずっとこの声に守られてきたのだ。声を聞いただけで胸の中を埋め尽くしていた苦いものがすっと消えたような気がした。

「うぅん、特になにかってわけじゃないのだけど、引っ越したこと、言ってなかったから」

『真壁さんから説明されたわ。会ってちゃんと話したいと言われたけど、こっちも忙しいし、電話で終わらせたけど、なかなか礼儀正しい方ね』

「うん」

『でも、やっぱり同棲には違いないから、世間の人はそういう目で見るんでね。立場のある人みたいだし、気をつけなさいよ』

「気をつけるって?」

『大きな会社の経営者の息子で、ご自身も子会社の社長なんでしょ? しかも同じ会社で社長と秘書なら従業員はいい気がしないわよ。気づかれないように注意しておかないと』

 椿は思わず「あ」ともらした。まったく意識していなかったからだ。

『それにそういう立派なご家庭の人なら、近づこうとする人もいるから、椿にいろいろ言ってくる可能性もあるしねぇ』

「・・恋人になるのに、邪魔だもね」

『それもあるけど、経営者として利用しようとする輩もいるってことよ』

 またしても椿の口から「あ」と出た。

『軽率な行動は取らないように。それから、椿』

「うん」

『驕ってはダメよ。いくら立派な人の恋人として横にいても、椿自身が偉くなったわけじゃないんだからね』

「・・うん、それは大丈夫。匠さんの恋人ってポジションも、いいのかなって戸惑っているところだから」

 通信の向こうにいる叔母が軽く笑った。

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