溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 カランとグラスの中で澄んだ音が響いた。

 琥珀色のウイスキーの中でいくつかの氷が揺れて踊る。ベッドのヘッドボードにクッションを置いて凭れている真壁は、手にしているグラスを持ち上げ、照明に掲げながらくるりと回した。光を受けてカッティングされたグラスと氷がキラキラと光る。

「まったく、困ったもんだな、我ながら」

 いつの間にか眠ってしまい、起こされて目を覚ますとパジャマ姿の椿が身を屈めて覗き込んでいる。目が合うと、体の奥底からゾクリと欲望が湧き、思わず手を取って抱きしめてしまった。そして――

(自制が利かずに抱き寄せてキスするって、何事だっ)

 今だって、壁の向こう側で椿が眠っていると思うとぞわぞわとなにかがが這い上がってくるようで落ち着かない。

(我慢しろ。もうすぐなんだ。焦って手を出して嫌われたら意味がない)

 はぁ、と大きなため息を落とす。

「本当に覚えていないんだなぁ。まぁ、仕方がないんだけど・・」

 と、思わず愚痴が口を突いて出しまった。

 グラスをベッド脇に置いているサイドテーブルに置くと身を起こし、そのサイドテーブルの扉を開いて、中からガラスケースを取り出した。十五センチ四方のガラスケースには、クリスタルできたハイヒールが一つ入っている。誰もが知っているシンデレラのガラスの靴だ。キラキラ輝いていて見る者を魅了するそれは、形から右足用だとわかる。

(椿・・)

 真壁は記憶の中の椿を思い浮かべた。
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