初恋物語
第一章
一日の仕事を終え家に帰る。これ程落ち着く時間はきっとない。
鞄と上着を脱いでソファーに横になる。体を駆け巡る充足感。私は本当に、今の自分に満足していた。
―プルルルル プルルルル
ふと鳴り響く着信音。スマホを見るとそこには「母」の文字が映し出されている。
少しうんざりしながらも電話に出ると、疲れた私とは対象的な明るい声が聞こえた。
「琴乃ー、元気にしてるの?」
「お母さん、急にどうしたのよ」
「いやぁねぇ…最近連絡よこさないから心配でねぇ。たまには実家にも顔出しなさいよ」
大抵親の電話なんてものは定型文の繰り返しだ。私はそんな定型文に従って、決まった相槌を打つのだ。
「あんたももう27になったんだから、良い人の一人くらい連れてきなさいよね」
言い捨てられるように放たれた言葉に、適当な返事をして電話を切る。
これは世の中の定型文ナンバーワンだと個人的に思うお決まりの台詞だ。
(毎回毎回飽きもせず…私だって連れて帰りたいっつーの!)
これこそが、私の人生につきまとう最大の悩みの種だ。