コガレル(番外編)~弥生ホリック~
玄関でインターフォンを鳴らした。
誰もいないことは分かってるんだけど。
屋敷の鍵は圭さんと別れて、ここを出て行く日に専務に返した。
でも冬休みにここを訪ねた時、専務がまた同じ鍵を私に預けてくれた。
あの日はもっと専務や准君と話がしたかったのに、圭さんが私をマンションへ連れて帰りたがった。
圭さんが席を立った隙に、専務が
「いつでも好きな時に、帰って来なさい」って、そっと鍵を手渡してくれた。
その鍵を差してドアを開けた。
真っ暗な玄関でスイッチを押して明かりを灯す。
今は週に一度、ハウスキーパーさんに掃除に来てもらってるそうだ。
変わらず広くて綺麗なお屋敷。
圭さんと准君が育ったこの家。
さっき専務に連絡をしたら、今はシンガポールにいる、って。
准君も友達とスノボに行ってしまってるけど、鍵があるなら勝手に上がって良い、って言ってもらえた。