コガレル(番外編)~弥生ホリック~


 玄関でインターフォンを鳴らした。
 誰もいないことは分かってるんだけど。

 屋敷の鍵は圭さんと別れて、ここを出て行く日に専務に返した。
 でも冬休みにここを訪ねた時、専務がまた同じ鍵を私に預けてくれた。

 あの日はもっと専務や准君と話がしたかったのに、圭さんが私をマンションへ連れて帰りたがった。
 圭さんが席を立った隙に、専務が
「いつでも好きな時に、帰って来なさい」って、そっと鍵を手渡してくれた。

 その鍵を差してドアを開けた。
 真っ暗な玄関でスイッチを押して明かりを灯す。
 今は週に一度、ハウスキーパーさんに掃除に来てもらってるそうだ。
 変わらず広くて綺麗なお屋敷。

 圭さんと准君が育ったこの家。
 さっき専務に連絡をしたら、今はシンガポールにいる、って。
 准君も友達とスノボに行ってしまってるけど、鍵があるなら勝手に上がって良い、って言ってもらえた。

< 12 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop