コガレル(番外編)~弥生ホリック~
「どういうこと?」
小上がりの端に腰掛けた澤口を見下ろした。
彼女は俺にゆっくりと手を開いて見せた。
天井に向けられた手の平に現れたのは、裸の鍵。
さっき弥生に渡してと頼んだはずのマンションのスペアキーだ。
個人的な用件でマネージャーを使うべきじゃないことは分かってる。
それでも俺の顔は割れてるし、勤め人と違って拘束時間が長かったり、休憩時間が予測つかなかったりで彼らに頼らざる得ない場面が多くある。
プライベートを多少晒してしまうのも、信頼関係の上だ。
「きちんと説明しろ」
手の平の鍵をつまんで取り戻す。
怒鳴りつけたい衝動をなんとか堪えた。
楽屋は壁もドアも薄い、大声は筒抜けになってしまう。
同時に鍵を託した状況を思い返した。
頼むのに傲慢にならないように、『手間をかけて申し訳ない』と言葉を確かに添えたはずだ。
もちろん言葉を添えたからって、何でも許される訳じゃないことも分かってる。