コガレル(番外編)~弥生ホリック~


 マネージャーさんはエレベーターに消えて行った。
 圭さんの元へ帰ったんだろう。

 どうしよう。
 どこかホテルにでも泊まろうかな…

 彼女はさっき、裸の鍵とキーホルダーについた鍵を宙で並べて見せた。
 それがどちらも合鍵で、キーホルダーは彼女の物。
 合鍵の他についてたのは彼女自身の自宅の鍵かも知れない。

 圭さんには会わない方が良い。
 食事会をキャンセルしてまで私と会ってたことが、ドラマの現場の人達の耳に入ったら、きっと圭さんの印象が悪くなる。
 あのマネージャーさんの動向が怖い。
 私が責められるだけならいい。
 圭さんに何か被害が及ぶことは怖かった。


 ポッカリと空いてしまった時間。
 代わりに誰かに連絡を取ろうとは思わなかった。
 圭さんに会ってたなら、きっとその人のことは思い浮かばなかったはず。

 気のきかなさと薄情な自分に、嫌気がした。
 スタジオの玄関に背を向けると、安いホテルの検索をしようとスマホを手にした。
 そんなわずかの動作の間に、タイミング良く着信音が鳴った。
 画面に表示された名前を見て感じたのは、驚きと懐かしさ。

「…冬馬君?」
「夢から弥生さんが東京に来てるって聞いたんで」

 冬馬君は編集部をスッパリと辞めて、今年になって上京した。
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